大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和36年(ワ)747号 判決 1962年12月25日

主文

被告沢田ミヨは原告に対し別紙第一物件目録記載の建物につき横浜地方法務局昭和三六年六月八日受付第三四三六七号を以てなされた甲区順位八番仮登記の所有権移転請求権移転の附記登記(順位八番付記一号)にもとづく所有権移転の本登記手続を、別紙第二物件目録記載の土地につき同法務局同日同受付番号を以てなされた甲区順位一一番仮登記の所有権移転請求権移転の附記登記(順位一一番付記一号)にもとづく所有権移転の本登記手続をせよ。

被告相沢久子は原告に対し別紙第一物件目録記載の建物及び第二物件目録記載の土地につきそれぞれ横浜地方法務局昭和三三年一二月一九日受付第六四七七七号を以てなされた各所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

被告渡辺庄栄は原告に対し別紙第一物件目録記載の建物及び第二物件目録記載の土地につきそれぞれ横浜地方法務局昭和三四年一月一三日受付第一一四六号を以てなされた各所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、別紙第一物件目録記載の建物及び第二物件目録記載の土地(以下本件建物及び土地という。)はもと被告沢田の所有であつたところ、訴外宮原信治は昭和三二年四月二四日同被告(当時水谷姓を名乗る)との間に本件建物及び土地につき代金を一、六〇〇、〇〇〇円と定めて売買予約を締結し、即日内金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、残金六〇〇、〇〇〇円は売買予約完結のとき支払うこととし、予約完結の際は同被告より同訴外人に対し本件建物及び土地の各所有権移転登記手続をなすと同時に同被告及びその夫訴外水谷栄蔵は同訴外人に対し本件建物の明渡をすることの約定が成立し、即日宮原信治はいずれも横浜地方法務局受付第一八八三〇号を以て本件建物につき甲区順位八番の、本件土地につき甲区順位一一番の各売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記をなした。

二、訴外宮原信治はその後残代金六〇〇、〇〇〇円を被告沢田に支払い、昭和三四年一二月一五日書留内容証明郵便を以て売買予約完結の意思表示をなし、同書面は翌一六日同被告に到達したので同訴外人は本件建物及び土地の完全な所有権を取得した。

三、原告は昭和三六年六月七日訴外宮原信治との間に本件建物及び土地につき売買代金を二、〇〇〇、〇〇〇円と定め、支払方法は同日金五〇〇、〇〇〇円を支払い、これと同時に同訴外人は本件建物及び土地の各所有権を原告に移転し、かつ仮登記により保全せられた売買予約の権利を原告に譲渡し附記登記手続をなすこと、残金一、五〇〇、〇〇〇円は本件建物及び土地に対する滞納処分による大蔵省差押登記抹消と同時に原告より同訴外人に交付することの約定が成立し、原告は即日金五〇〇、〇〇〇円を同訴外人に支払い、本件建物及び土地の所有権を取得したので、翌八日本件建物につき横浜地方法務局受付第三四三六七号を以て譲渡を原因とし第一項記載の所有権移転請求権保全仮登記にもとづく所有権移転請求権移転の附記登記(順位八番付記一号)を、本件土地につき同法務局同受付番号を以て譲渡を原因とし第一項記載の所有権移転請求権保全仮登記にもとづく所有権移転請求権移転の附記登記(順位一一番付記一号)を各経由した。従つて被告沢田は原告に対し本件建物及び土地につき右仮登記附記登記にもとづく所有権移転の本登記手続をなす義務がある。

四、しかるところ、被告相沢は被告沢田より本件建物及び土地につきそれぞれ横浜地方法務局昭和三三年一二月一九日受付第六四七七七号を以て、同年六月五日代物弁済を原因とする所有権取得登記を受け、次いで被告渡辺は被告相沢より本件建物及び土地につきそれぞれ同法務局昭和三四年一月一三日受付第一一四六号を以て昭和三三年一二月一五日売買を原因とする所有権取得登記を受けた、

五、しかし被告相沢及び被告渡辺のための第四項記載の各所有権取得登記は訴外宮原信治のためなされた第一項記載の所有権移転請求権保全の仮登記後になされたものであるから、仮登記権利者である同訴外人が本登記をなすに必要な要件を具備するに至つた以上同被告等はそれぞれ同訴外人に対し右本登記の目的たる権利と相容れないその所有権取得及びその登記の効力を主張し得ず、従って、同訴外人より譲渡を原因とし右仮登記により保全せられた所有権移転請求権移転の附記登記を受けた原告に対しても右各効力を主張し得ないので前記各所有権取得登記の抹消登記手続をする義務がある。

よつて、原告は本件建物及び土地につき被告沢田に対し所有権移転の本登記手続を被告相沢、同渡辺に対し各所有権取得登記の抹消登記手続を求めるため、本訴請求に及んだ

と述べた。

証拠(省略)

被告沢田は合式の呼出を受けたのにかかわらず、本件各口頭弁論期日に出頭せず、かつ答弁書その他の準備書面を提出しない。

被告相沢、同渡辺等訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の一の事実中本件建物及び土地がもと被告沢田の所有であつたこと、本件建物及び土地につき原告主張の日にその主張のような所有権移転請求権保全の仮登記が経由されたことは認めるが、その余は否認する、二の事実は不知、三の事実中本件建物及び土地につき原告主張の日にその主張のような所有権移転請求権移転の附記登記が経由されたことは認めるが、その余は不知、四の事実は認める。五の主張は争う。

と述べた。

証拠(省略)

理由

先ず原告の被告沢田に対する本訴請求につき判断する。

同被告は原告主張事実を明らかに争わず、かつ争う意思も認められないから、民事訴訟法第一四〇条に則りこれを自白したものとみなすべく、右事実によれば原告の本訴請求は正当であるから、これを認容すべきである。

次に原告の被告相沢、同渡辺に対する本訴請求につき判断する。

本件建物及び土地がもと被告沢田の所有であつたことは当事者間に争いがなく、証人宮原信治の証言により真正に成立したと認める甲第三号証、同証言及び証人田部井長次の証言を綜合すると、訴外宮原信治は昭和三二年四月二四日被告沢田(当時水谷姓を名乗る)及びその夫であつて訴外水谷栄蔵との間に本件建物及び土地につき代金を一、六〇〇、〇〇〇円と定めて売買予約を締結し、即日内金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、残金六〇〇、〇〇〇円は売買予約完結のとき支払うこととし、予約完結の際、被告沢田は宮原信治に対し本件建物及び土地の各所有権移転登記手続をなし、同時に同被告及び水谷栄蔵は宮原信治に対し本件建物の明渡をする約定が成立したことを認めることができ他に右認定の妨げとなる証拠はない。そして即日宮原信治のためいずれも横浜地方法務局受付第一八八三〇号を以て本件建物につき甲区順位八番の、本件土地につき甲区順位一一番の各売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記が経由されたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第七号証、前顕証人田部井長次の証言により真正に成立したと認める甲第八号証、同証言及び前顕証人宮原信治の証言を綜合すれば、宮原信治は昭和三三年四月頃当時被告沢田の夫であつた水谷栄蔵の訴外日本相互銀行に対する約六一〇、〇〇〇円の債務につき保証人として代位弁済したので、当時同被告及び水谷栄蔵との間に右弁済金を前記売買残代金六〇〇、〇〇〇円に充当してこれが支払を完了したこととする合意が成立したので、その後宮原信治は昭和三四年一二月一五日付書留内容証明郵便を以て被告沢田に対し、前記売買予約完結の意思表示をなし、これにより本件建物及び土地の完全な所有権を取得したことが認められ、被告等の提出援用にかかる全証拠によるも右認定を左右するに足らない。そうすると宮原信治は前記仮登記にもとづく所有権取得の本登記をなすに必要な要件を具備するに至つたものというべきである。ところで成立に争いのない甲第五号証、前顕証人宮原信治の証言により真正に成立したと認める甲第四号証、同証言及び前顕証人田部井長次の証言を綜合すると原告は昭和三六年六月七日訴外宮原信治との間に本件建物及び土地につき売買代金を二、〇〇〇、〇〇〇円と定め、支払方法は同日金五〇〇、〇〇〇円を支払い、これと同時に同訴外人は本件建物及び土地の各所有権を原告に移転し、かつ仮登記により保全せられた売買予約の権利を原告に譲渡し附記登記手続をなすこと、残金一、五〇〇、〇〇〇円は本件建物及び土地に対する滞納処分による大蔵省差押登記抹消と同時に原告より同訴外人に支払うこととする売買契約が成立し、原告は即日同訴外人に対し金五〇〇、〇〇〇円を支払つて本件建物及び土地の所有権を取得したことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はないそして原告が翌八日本件建物につき横浜地方法務局受付第三四三六七号を以て譲渡を原因とし前示所有権移転請求権保全仮登記にもとづく所有権移転請求権移転の附記登記(順位八番付記一号)を本件土地につき同法務局受付第三四三六七号を以て譲渡を原因とし前示所有権移転請求権保全仮登記にもとづく所有権移転請求権移転の附記登記(順位一一番付記一号)を各経由したことは当事者間に争いがない。そうすると被告沢田は原告に対し本件建物及び土地につき右各所有権移転請求権移転の仮登記附記登記にもとづく各所有権移転の本登記手続をなす義務がある。

ところで被告相沢は被告沢田より本件建物及び土地につきいずれも横浜地方法務局昭和三三年一二月一九日受付第六四七七七号を以て同年六月五日代物弁済を原因とする所有権取得登記を受け、次いで被告渡辺は被告相沢より本件建物及び土地につきいずれも同法務局昭和三四年一月一三日受付第一一四六号を以て昭和三三年一二月二五日売買を原因とする所有権取得登記を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第五号証によれば被告沢田より被告相沢に対し、被告相沢より被告渡辺に対しそれぞれ右各登記の原因である各権利移転行為がなされたことが明らかであるところ、右各登記は訴外宮原信治のためなされた前示認定の所有権移転請求権保全の仮登記後になされたものであることは既に認定したところにより明らかであるから、前叙認定のように仮登記権利者である訴外宮原信治が本登記をなすに必要な要件を具備するに至つた以上、被告相沢、同渡辺はそれぞれ同訴外人に対し右本登記の目的たる権利と相容れないその権利取得及びその登記の効力を主張し得ないものというべく、従つて、同訴外人より右仮登記により保全せられた所有権移転請求権移転の附記登記を受けた原告に対しても右の各効力を主張し得ず、前記各所有権取得登記の抹消登記手続をなす義務があるものというべきである。

よつて原告の被告相沢、同渡辺に対する本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

以上の次第であるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

別紙

第一物件目録

横浜市西区花咲町四丁目一〇七番地の一四

家屋番号同町三二番

一、木造亜鉛葺二階建居宅一棟

建坪二一坪二合五勺

外二階一三坪七合五勺

第二物件目録

横浜市西区花咲町四丁目一〇七番地の一四

一、宅地二六坪七合二勺

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例